May 12, 2008

歴史の不幸!悪が誕生する日。/『アドルフの画集』4

アドルフの画集



















●アドルフの画集●
●英語原題;MAX
●監督・脚本;メノ・メイエス
●出演;ジョン・キューザック/ノア・テイラー/リーリー・ソビエスキー/
モリー・パーカー/ウルリク・トムセン /ダヴィッド・ホロヴィッチ
●DATA;2002年/ハンガリー・カナダ・イギリス/108分/

 芸術家を題材にしたDVD。アドルフとは、あのアドルフ.。そう、ヒットラーの若き日を描いた作品だ。奇妙な男の友情と、時代の大きな潮流の中で、生きるべきものと、死すべきものが、入れ代わったような、運命の皮肉!?さて、どんな作品かと言うと…。

●あらすじ

 1918年(水晶の夜事件の20年前/ミュンヘン一揆の5年前)のミュンヘン。第一次世界大戦で、ドイツは敗戦。領土の割譲、巨額の賠償金、人々は、貧困と不況の中で喘いでいた。軍宿舎の中に、画家を志す若者アドルフがいた。その宿舎では、民族主義の政治グループが人材を求めていた。それは、人々の憎しみの対象をユダヤ人に向けるものだった。その会話を聞いていたアドルフは、無関心に席を立った。

 マックスは、鉄工所の一角で画廊を始める。彼は、画家を志していたが、戦争で右腕を失っていた。廃屋のような大きな空間に、デュシャン、エルンストやクレーの抽象作品や、斬新な大作が飾られていた。画廊のパーティには、裕福な人々が集まり、シャンパンのグラスを重ねる。そこだけ戦争などなかったよう。マックスは裕福なユダヤ人の家庭の出身だった。

 マックスの画廊を、アドルフが訪ねる。彼のスケッチブックには、丁寧な風景画が描かれていた。マックスには、絵には魅力を感じなかったが、何か違う情念を感じていた。マックスは、その情念を画布に表現出来たら、「面白い作品が生まれるのでは」と直感し、アドルフに資金援助を申し出る。

 アドルフの中の、激しい炎を見つけた男が他にもいた。彼の弁説の才能に気づいた将校は、予定していた弁士の代理をアドルフに頼む。政治に興味のないアドルフは、「ユダヤ人の悪口を言え」と言う将校の指示に従ってしまう。絵を描きながら、演説活動をするアドルフ。最初はまばらな聴衆相手、酒場や路上で演説していたアドルフは、演説中に奇妙な高揚感を感じる。また、彼のユダヤ人排斥の過激な内容は人気を集めていく。彼の反ユダヤ的なアジテーションを知ったマックスは不安に駆られる。アドルフが絵の道に専念するように、アドバイスと資金援助を続ける。

 白い画布に色を塗るアドルフ。だが、画布の上には何も生まれなかった。彼は自分の理想とする国家、軍隊のイメージを描くことに没頭する。それはゲルマン神話と偉大なローマ帝国の融合した、彼の理想国家だった。マックスは、アドルフのスケッチを見て、新しい芸術を感じ興奮する。「彼の絵は新しい時代を感じる」、マックスはアドルフの個展の準備を始めるのだが…。>>>つづきはDVDでどうぞ!

*************************************

 本作『アドルフの画集』は、歴史に想を得ているが、完全なフィクションで、原題の『MAX』になっているマックス・ロスマンと言う人物は存在しない。歴史的にこの時期のヒットラーが、絵ハガキなどを描きながら、軍に在籍し、国内の政党活動の調査などをしていたようだ。調査中に、演壇の弁士をやり込めるアドルフの気迫と弁説を聴いたドイツ労働党の議長がアドルフを政治活動の活動家にした言われている。映画では、巧みに虚実を織りまぜて、画家を目指す青年が、“20世紀最大の獣”と言われる政治家の誕生を描いている。

ヒットラー
 貧しいドイツ人と裕福なユダヤ人、映画の中で、マックスの家は大きな吹き抜けの居間、沢山の書籍、綺麗な奥さん、可愛い子供、社交界etc.、と社会的に成功している富裕なユダヤ人家族を描いている。かたや、アドルフの部屋は、暖房も調度もない、小さい部屋であり、彼の青白い顔は栄養失調のように見える。実際のヒットラーの当時の宿舎は、瀟洒で清潔な場所だったらしい。この様に、本作は戦勝国サイドのイメージによって作られたドラマの部分が多い。

 だが、実際に、歴史は大きな不幸、ユダヤ民族の皆殺し計画に突き進んでいくのだから、現実の方がよほども不条理で怖いように思う。単純に貧困や劣等感が“悪の化身”を産むと言う図式は通用しないものだ。

■■■

 昔、仲良かった友達がネオ・ナチ(?)だった。ドイツ語の勉強しかしないで、大学を中退しちゃったり、ドイツ空軍のプラモデルを作ったりしていた。もし、彼がドイツの若者だったら、「絶対!逮捕されてるもんネ」と、内心思いながら、彼のヒットラー礼讃を聴いていた。普段、気弱で神経症的な友達だったけれど、ヒットラーの話をしている時は、心底幸せそうだった。ま〜、、、困った趣味だとは思うのだが、おかげでヒットラー関連の図書をたくさん、面白く読むことが出来た。

 長い前ふりだったが、何故?あの頃のドイツ国民が熱狂的にヒットラーを信奉したのか?残虐な行為さえ、正当化した理想とは「何だったのだろうか?」と考えてしまうことが多々あった。歴史の不幸、ユダヤ民族の不幸、この映画『アドルフの画集』の中に、答えの断片があるように感じた。

■■■

 第一次世界大戦当時の軍集合写真に若き日のヒットラーが写っている。痩せた若者が後年、世界を震撼させる独裁者になるとは、写真からは伺えない。アドルフを演じるノア・テイラーは、戦勝国がイメージするヒットラーを忠実に演じている。実際の彼は、175cmあったし、身近な女性、子供などには、実に温和な人柄を見せたと言われている。マックスは長身で裕福そうで、アドルフは不健康に見える。ノアさんは少し、悪人顔過ぎるのが、それが、ヒットラーのイメージなのだ。ヒットラーの肖像写真は、不信なものが複数あり、彼が影武者を複数使っていたのが窺わせる。左の肖像画は二枚目過ぎるが、これは影武者の一人の写真と似ている。戦後、ヒットラー生存説が囁かれたが、それも影武者伝説の1つだろう。

 ヒットラーの絵(下に参照)だが、時々海外のオークションに出品されることがある。ウィーンの美術大学受験を2回失敗したと言われるヒットラーだが、きっと、選考担当の教授と趣味が合わなかっただけだろう(?)。教授は彼に、建築家を薦めている。(※当時の建築家は皆、絵が達者)歴史に「もし?」はないが、もし、ヒットラーが美大受験に合格し、建築家になっていたら、歴史が変わっていただろうか…。時代は違う独裁者を産んでいただけかもしれない。

■■■

 本作『アドルフの画集』は歴史のエッセンスを、戦勝国的な解釈で、面白い物語に組み立てている。もし、ヒットラーがユダヤ人を排斥、弾圧せず、周囲の国を侵略しなければ、彼の先験的なヴィッジョンは正当な評価を得られたと思う。彼はもっとも不幸な芸術家の一人なのかもしれない。

 ラスト.シーンの俯瞰が美しくて、悲しい。

ブログランキング・にほんブログ村へ>Please on Click!!
◆ブログランキング参加中。乞う!クリック!


ヒットラー絵画

moondrop_aco at 02:56 │Comments(0)TrackBack(0)洋画系  |  映画(あ・か行)

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔