May 17, 2008
無欲と神性、風景のイコン画家/『ニキフォル』

●ニキフォル
知られざる天才画家の肖像●
●原題;My Nikifo
●監督;クシシュトフ・クラウゼ
●出演;クリスティーナ・フェルドマン/ロマン・ガナルチック/ルチアナ・マレク
●DATA;2004年/ポーランド映画/ポーランド語/100分
●受賞歴;第40回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭(チェコ)グランプリ、他多数受賞
“ニキフォル=Nikifo”、50年前に73歳で亡くなったポーランドの画家。不勉強で、画家ニキフォルがヨーロッパで大人気の画家だと知らなかった。それに、ポーランドの映画をほとんど観たことがない(汗)。本作は、非常にシブイ!考えさせられる映画だ。さて、どんな映画かと言うと…。
●あらすじ
1960年、冬のクリニツァ。市役所の管理部で美術担当として働くマリアンは、画家としても活動しており、事務所の中にアトリエを持っていた。管理部の上司ノクワは文化省への栄転が決まっており、マリアンも一緒に転勤することになっていた。絵を描くマリアンのアトリエに、小柄な老人が訪れる。彼は挨拶もなく、絵を描き出す。老人の名前はニキフォル、身寄りもなく、住んでいた部屋も追い出されたばかりだった。冬のポーランドの寒さは厳しい。ニキフォルは、お茶もあり、絵の具もあるマリアンのアトリエを、自分の居場所と決めたのだった。マリアンの描きかけのキャンバスに、自分で描いたイコン(キリストの絵)を鋲でとめるニキフォル。
ニキフォルの絵は、葉書サイズの小さい画用紙に、クリニツァの風景や、聖堂、聖人などを描き、水彩で仕上げたもの。彼は日に3枚づつ仕上げ、路上で観光客に売って、生計を立てていた。追い出してもまた来る、マイペースのニキフォルに、マリアンは困惑する。妥協策として、自宅の物置を、アトリエ兼寝室として、ニキフォルに提供することにする。マリアンには、役場の受け付けをしている妻と二人の小さい娘がいた。妻、ハンカは驚くが、春、クラクフへの引越しまでの間だと言うマリアンの言葉に、ニキフォルとの同居を承知する。
翌日、役場のアトリエに上司ノクワがニキフォルを連れてくる。新聞に大きくニキフォルの名前が掲載されたこともあり、ノクワは「注目される芸術家だ。面倒を見てやれ」と言う。また「何枚か、絵を貰ってくれ」とマリアンの頼んだりするのだった。
マリアンは、浮浪者のようなニキフォルに、清潔な衣服を用意し、風呂に入れ、皮膚病の治療をする。また、身分証もないニキフォルのため、戸籍調べに奔走する。ニキフォルの作品と人柄を知ったマリアンは、いつしかニキフォルの面倒を見ることに使命感を持つようになっていた。>>>つづきはDVDでどうぞ!

******************************************
本作は、障害を持つ画家“ニキフォル”が、心優しい後見人マリアン・ヴォシンスキと出会い、共に過ごした最晩年の8年間を描いている。事実に沿ったシナリオなのだろう。画面は、ドキュメンタリー映画のように、淡々と進行する。凝った演出、余分なBGMもなく、説明的な台詞もない。社会主義下のポーランドは、質素で人々の暮しは貧しい。映画では、保養地クリニツァの様子も、路上の退屈な風景として紹介するに留まる。しかし、大聖堂の中に、ニキフォルが一人立ち尽くすシーンだが、その伽藍の荘厳な美しさ!ニキフォルの中の、天国が、怒濤の迫力で迫ってくる。そこで、彼が“アール・ブリュットの聖人”と呼ばれる由縁が判る。
物語の大半は、冬の風景に支配される。ポーランドの原野を、主人公マリアンの真っ赤な乗用車が走る。厳しい冬の景色の中に、点のように見える小さな赤い車、それは厳しい社会の中での、ニキフォルとマリアンの温かい関係を象徴しているようだった。
■■■
後見人マリアン・ヴォシンスキは、大学で専門的に美術を学んだ経歴を持つ。彼は、冴えない平凡な地方画家でしかない。マリアンには「魂が産む美術を見抜く審美眼があった」と、本作の映画紹介にあった。だが、私は微妙に違う感慨を持った。絵画そのものと言うより、マリアンはニキフォル、その人にハマってしまった!!と私は感じる。
画家と言う仕事は厳しい。多くの画家は、画塾経営、教師や他の職業と兼業しながら、絵を描き続けなければならない。貸画廊に作品を並べても、一般画家の絵は、そうそう売れるものではない。成功したいと思うのは自然だ。テクニックやテーマ、時々のトレンド、画風を変化させ、売れそうな絵を描くこともあるかもしれない。マリアンも普通の地方画家で、役場勤務の公務員、だから無名画家の悲哀も苦労も熟知しているはずだ。
主人公のニキフォルは、マリアンとは対極にある。ニキフォルは成功などの、世俗の欲はまったくない。彼は、専門教育も受けていなければ、絵のテクニックなど、考えたりしない。ただただ、絵を描くこと、それを観光客に売ること、そして生きること、その3点だけで、ニキフォルは出来ている。ニキフォルの中には絵しかなく、その絵のイマジネーションは、教会のイコンがもたらしている。こんなに最強の画家は、なかなかいない!ゴッホは生涯1枚の絵も売れなかった、ロートレックは絵を禁じられた、ダ・ヴィンチは、工夫ばかりしていて、なかなか絵が完成しなかたetc.。最強ニキフォルは生涯40000点の絵を残しているのだ。
■■■
ニキフォルの作風は、ナイーブアートとして分類されるのだろう。彼には、言語障害があり、文字の読み書きも満足に出来なかった。ニキフォルの絵は、日本の放浪画家山下清に、どこか似ている。見たものを、記憶を、心の中で再構成し、「あれば良いと思えば、そこに駅を描いたり、そこ(アトリエ)にいながら、彼は旅していた」と、映画の中の台詞にもあった。山下清さんの風景画も、ドラマのようにそこで描くことは少なく、アトリエに戻ってから製作されたものがほとんどだったらしい。彼等の絵は、心で描く絵。そして、すべての人の心は奥底で繋がっていると言う。何故、ニキフォルの絵に人気が集まったのか?評価が高いのか?答えは、そこにあるのかもしれない。
美術公募展の会場で、愛好家らしい奥様が、「写真みたいに巧いわね」と言う。この会話、何度聞いたことだろう。ニキフォルの絵は、現代絵画の価値は、写実とは違うところにあることを教えてくれる。
小柄なニキフォルを演じるのは、高齢の女優さん!!だと言うのも驚きだった。
◆ブログランキング参加中。乞う!クリック!

トラックバックURL
この記事へのトラックバック
1. mini review 08295「ニキフォル 知られざる天才画家の肖像」★★★★★★★★☆☆ [ サーカスな日々 ] May 19, 2008 13:40
チェコのカルロヴィ・ヴァリ映画祭でグランプリを受賞したほか、各国の映画祭で大絶賛された伝記ドラマ。ポーランドを代表する現代絵画の鬼才として世界的に知られる画家ニキフォルの生き様を描く。監督はポーランドの名匠クシシュトフ・クラウゼ。86歳のベテラン女優クリス...
この記事へのコメント
1. Posted by
kimion20002000
May 20, 2008 01:56
コメ&TBありがとう。
思わぬ拾い物の作品でしたね。
そちらのレヴューも○○系って、結構、範囲が広いですね。
いいと思うな(笑)
思わぬ拾い物の作品でしたね。
そちらのレヴューも○○系って、結構、範囲が広いですね。
いいと思うな(笑)


