July 01, 2008
逃げるが勝ち?でも逃げない潔さ!!/『漢城別曲−正』

“冬になると松の青さが判る”
●漢城別曲−正●
●演出;クァク・ジョンファン
●出演;イ・チョンヒ/
チン・イハン/ド・ジウォン/
キム・ハウン/アン・ネサン 他
●DATA;韓国/2007年/全8話
●内容:18世紀、政治改革を実行しようとする王“正祖”と、それぞれの理想国家を夢見る若者たちの悲劇を描くドラマ。
夕方、近所のスーパー・マーケットに行くと、レジ担当の奥さんが韓国ドラマの話をする。彼女は“韓国ドラマ”の大ファンなのだ。“韓国ドラマ”の話題で、知らない人とも旧知の友人のように話す不思議!?。「“韓国ドラマ”、畏るべし!!」、てな訳で、今月はまだ書いていなかった“韓国TV時代劇”のレビューをボチボチ書いていきます。今月の最初のレビューは『漢城別曲−正』。さて、どんな話かと言うと…。
●あらすじ
18世紀末の漢城(今のソウル)。
時の王、正祖は、汚職と腐敗にまみれた国政を改革しようと、遷都を計画していた。“遷都は豊かな朝鮮を作る道”と王は改革に燃える。だが、王宮にも、有力貴族にも多くの反対勢力がいた。そして、市塵の商人たちは遷都による既得権の喪失を心配していた。
そんな中、市塵(王宮外郭にある特権的商人集団)の商人、高利貸しが連続し不審死を遂げる。左捕盗庁の武将サンギュは、真相究明に奔走していた。サンギュは、死因を調べるうちに、死穴に残された金の鍼(はり)と口腔に薬物の痕跡を発見する。また、内偵していた密貿易船から、中国の高級薬剤“八角”を発見する。しかし、その薬剤は“八角”ではなく、痕跡を残さない“毒の実”だった。
不審死の現場には、男と若い女がいた。男はファン、密命を受け、官奴婢として苦役をしていた元両班の娘ナヨンを殺人者に育てたのだった。殺人者になっても、ナヨンは優しい気持ちを失わない娘だった。道で病に苦しむ老女の膿を口で吸い出し、鍼治療をする。そんなナヨンをファンは苦々しい思いで見詰めていた。
■ ■
サンギュの父は政府の高官だったが、母は奴婢だった。サンギュには、庶子の生まれのために世の中を拗ねていた頃があった。そんな彼に立ち直るきっかけを与えてくれたのは、儒学者の娘のナヨンだった。サンギュが清に留学中、ナヨンの父は刑死、一家は消滅していた。
市塵の総頭領に、若い貿易商ヤン・マノが選ばれる。彼は、低い身分の出身だったが、猛勉強をし通訳官になる。通訳官の特権を活かし、貿易で莫大な資産を作ったマノには秘めた想いがあった。自分に夢を与えてくれた主人の娘ナヨンを探して、幸せにすることだった。通訳官を辞して朝鮮全土を探してもナヨンの消息はつかめなかった。
青春の頃、同じ場所で違う夢を見ていた3人の若者たち、両班の娘ナヨン、庶子のサンギュ、常人のマノ。数年の歳月の後、再会した三人だったが、殺人者、武将(警官)、大商人と、まったく違う立場になっていた。再会を喜ぶこともなく、三人は大きな陰謀に巻き込まれていく。>>>つづきはDVDでどうぞ!

●歴史的背景
歴史的に多くの王は神秘的な出生や、神々の子孫として君臨していた。だから、王権には不可侵な神秘力が働く。だが、朝鮮最後の王朝、李氏王権の成立は極めて政治的だった。初代王は高麗の武将“李成桂”は、高麗34代恭譲王から王権を簒奪、中国・明から冊立された王朝だ。国号決定(朝鮮)も、中国によって決定された。それゆえか?、李朝では、王権は絶対王制ではなく、多くの国法に縛られ、有力官吏の干渉も極めて強かった。
本作は、王権を巡る政争が、物語の中心にある。22代王正祖の時世、祖父21代王英祖の頃からつづく、派閥争いで王権は弱体していた。老論、少論、僻派、時派と呼ばれる派閥はお互いの足を引っ張ることに、腐心し、多くの常民(一般庶民)は、洪水や飢饉、重税に苦しみ、貧しい暮らしを余儀なくされていた(現在も、北の国民は似た境遇かもしれない)。
正祖だが、祖父(英祖=老論陰謀で荘献世子に死を命じる)、父(荘献世子=餓死による自決?)、自分(正祖=毒殺?)と三代に渡り、庶子出自になる。日本では、側室の子供であっても、他に跡継ぎがなければ、本妻の養子として、差別なく家門が世襲できる。だが、朝鮮の両班階級は、庶民の血が家門に流入することを嫌い、差別を法令化していた。母系優先と呼ばれる考えだ。今も女性が旧姓のままなのは、この考えが元になっている。
正祖は、庶子ゆえに、差別的な幼少期を送っており、実父の死には深い恨みを抱いていた。王になったのち、恨みを胸に秘め、特権的な両班階級に対して改革を求めていく。これは実学に基づいた近代的な平等思想に立脚した考えだった。だが、正祖の早すぎる死によって、改革は頓挫。若すぎる死は毒殺と囁かれているが、証拠になる文献は残っていない。以降、祖父英祖の妃“大妃”が実権を握り、勢道政治が中心となる。キリスト教弾圧や、政争も激しさを増し、朝鮮半島は政治的な混迷の中に戻っていくのだ。
ここらへんの李朝国史が判らないと、『漢城別曲−正』はなんだか???な部分もある。
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韓国KBSの1年連続時代劇(例えば、『ホジュン』『チャングム』『海神』『商道』『薯童謡』など)は、一座のように脇役が固定しており、悪役斑、お笑い斑、用心棒斑など、同じ俳優さんが出演していることが多い。だが本作『漢城別曲-正』は、おなじみの俳優の顔もなく、主演の3人も新鮮な顔ぶれ。それぞれに魅力的だ。
韓国ドラマでよく感じるのは「この顔、どっかで見たな〜???」って言うご近所錯覚(?)。本作のナヨンは、友達にそっくりだし、マノさんは近所にそっくりさんがいる。ナンジュ役の男性も、高校の時見かけたような顔だ(笑)。親しい雰囲気の俳優さんが、悲劇的な役を演じている。これは、感情移入しやすいように思う。そんなところにも、韓国ドラマの人気の一端かもしれない。
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タイトルバッグは、色彩を押さえ、暗いシーンをコラージュしていく。殺人、拷問、陰謀…、謎の複雑さを予感させ、センスが良い!!。本作DVD紹介で、“フュージョン時代劇”と書かれていた。新感覚と言う程度の意味だと思う。実際、“フュージョン時代劇”がどんなものか?、???なのだが、本作『漢城別曲−正』は、他のオーソドックスな時代劇より、数倍絵づくりに工夫がある。演出のクァク・ジョンファンは、ロケを多用し、陰影の深いスタイリッシュな映像を作り上げている。
回想シーンで映る春夏秋冬の美しい朝鮮の山河は、言葉どおり絵のようだった。印象的だったのは、池に浮かぶ東屋の四季。固定カメラで、桜、松青、紅葉、雪など、自然の変化を追っていく。これは根気のいる作業だ。凝っているのは、自然描写だけではない。他の韓国時代劇は、韓国民族村などの撮影施設や、スタジオ製作が多く、フラットなラィティングで、画面がのっぺりしている。だが、本作は、自然光を意識したライティング設計をされており、空間の広がりに、香の漂うような時代の空気感があった。また王宮内の光りの陰影、調度や、技楼の内装、遊廓の内部などなど、凝ったものが多く、見ていて飽きない。衣装や髪飾り、絵屏風、小物も研ぎすまされた美意識に支配されていた。
また、アクションシーンも、スピード感があり、よく訓練された男優たちが、迫力ある武闘シーンを演じていた。お約束の主従を越えた男達の友情もあり、BL好きな同人誌作家さんには、美味しいドラマかもしれない。
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「アガシ〜!」と呼び掛け、本心を吐露するマノの純情さ!!。「ナンジャ〜!」と叫び、涙をこらえるサンジュ!!。惨死を覚悟で、正義を貫こうとするナヨン…。
日本のドラマでは、これほど男性が一途に女性を想うシナリオはなく、こんなに女性が強い役のことも少ない。本作のナヨンは、自分の信念のもと、大義に身を殉じる女性だ。「逃げれば良いのに…。」と思っても、逃げない主人公たち。やっぱり、人生は逃げちゃダメなんだな〜〜〜、、、。。。(溜め息)。
全8話は手頃な長さ、韓国TVドラマを見たことのない人にもお薦め!
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